MPS(マルチ・パーパス・ソリューション)とは?
市販されているMPS(マルチ・パーパス・ソリューション)
MPSとは、ソフトコンタクトレンズの洗浄、すすぎ、保存、消毒を1液で行うことのできる消毒液です。旅行の時でも、煮沸器のコンセントを探し回ったり、複数のボトルや中和剤を持ち歩く必要もありません。MPSの特徴は簡単なこと!「まず手のひらにMPSを5〜6滴たらし指先でソフトコンタクトレンズをこすり洗い。次にレンズ両面をMPSですすぎます。その後、MPSを満たしたレンズケースに一定時間以上漬けておきます。装用直前にMPSでレンズを十分にすすいでから装用してください。」それから、レンズケースの毎日の水洗いと乾燥は必須です。ケースの内側をよくこすり洗いし、風通しの良いところでよく乾かします。決してサボらないようにして下さい。
MPSの長所と短所
MPSとは一本で洗浄、すすぎ、保存、消毒ができる溶剤です。MPSの洗浄とは、こすり洗いであり、つけおき洗浄ではありません。MPSは操作が簡単で、消毒効果も持続性があり、ソフトコンタクトレンズへの影響も少ないのが長所です。その一方で、使用方法を誤るとコンタクトレンズトラブルに直結します。MPSは消毒効果が弱く、真菌、アカントアメーバに対しては消毒効果がほとんど期待できません。レンズケースの管理を怠ると、レンズケース内外に微生物が増殖し、感染症を招くことになります。MPSは薬剤であり過敏症の報告もあります。MPSに含まれる界面活性剤による結膜のアレルギーの影響も指摘されています。最近では、ソフトコンタクトレンズとMPSには相性があり、相性が悪いと黒目に傷を付けることが報告され、ソフトコンタクトレンズなら、どのMPSを使っても安全とはいえなくなってきました。
1. 煮沸消毒との大きな違い
煮沸はソフトコンタクトレンズの最強の消毒方法です。仮に細菌が100あれば、その数をゼロにしてしまうのが煮沸です。MPSには残念ながらそこまでの消毒能力はなく、100あった細菌のうち1〜2は残ってしまいます。そこでMPSでは、こすり洗いとすすぎのプロセスを加えることであらかじめ細菌の数を減らしてから、無害なレベルまで消毒します。
2. コンタクトレンズとMPSには相性がある
MPS使用者にみられた点状表層角膜症
ソフトコンタクトの種類は、大きく分けてイオン性と非イオン性、さらに含水性が高いものと低いもので分けることができます。原則としてMPSはどの種類のソフトコンタクトレンズにも使えます。ただし、最近になって、コンタクトレンズとMPSには相性があり、相性が悪い組み合わせを使うと、黒目(角膜)に傷がつくことが報告されています。眼科医に相談して自分に最も合うレンズケア用品を選んでもらうとよいでしょう。
3. 目にもソフトコンタクトレンズにも優しい
ソフトコンタクトレンズの消毒剤である過酸化水素は劇薬で、中和するのを忘れて目に入れてしまったり、子供が間違って扱うと深刻な事故につながりかねません。MPSはそれ自体の安全性が高く、誤用による危険が少ないのが特徴です。また、レンズに熱をかけないので、レンズが変形したり、汚れが固着することもありません。
MPSの使い方6つの常識
1. こすり洗いを欠かさない
ソフトコンタクトレンズのこすり洗い
こすり洗いの有無によるソフトコンタクトレンズの汚れの違い
MPSは漬けておくだけで洗浄できると勘違いしている人も多いようですが、こすり洗いが不可欠です。MPSは過酸化水素などを用いた従来の消毒液に比べ消毒能力が低いため、これをカバーするにはこすり洗いが必要となるのです。手の上でMPSを5〜6滴つけ指先で片面20〜30回こすり洗いします。レンズを破かないように力加減に注意しながらこすり洗いをするのがコツです。ただし、汚れた手でこすり洗いしても全く消毒の意味がありません。コンタクトレンズを扱う前に手を石鹸でよく洗っておきましょう。
2. ソフトコンタクトレンズは水で洗わない
ソフトコンタクトレンズを水洗いする人が意外と少なくありません。水道水や井戸水の中にはアカントアメーバが混入していることがあります。これはMPSでは殺すことのできない目には恐ろしい微生物です。水から付着したアカントアメーバは普通なら涙で洗い流されますが、角膜に小さな傷があるとそこから感染し、ひどい場合には失明にまで至ることもあります。ソフトコンタクトレンズを水道水や井戸水で絶対にすすがないで下さい。以前、煮沸消毒をしていた人で、MPSや過酸化水素の消毒方法に切り替えた人の中で、精製水や水道水で作成した自家製保存液を使用している人がいますが、アカントアメーバ角膜炎のトラブルの原因となっています。MPSや過酸化水素を使用している人は、絶対に自家製保存液は使用しないで下さい。
3. 保存液は自作しない
自家製保存液は使用しない
煮沸消毒では、精製水に錠剤を溶かして自家製保存液を作り、保存やすすぎに用いていましたが、煮沸消毒からMPSに切り換えてもこの習慣が抜けず、そのまま使っているケースも目立ちます。しかしながら、これは大きな間違いです。自家製保存液の中ではアカントアメーバや細菌が増殖している可能性が非常に高いことが知られています。MPSでは消毒力が弱いために、それらの微生物を殺菌することは出来ません。洗浄、消毒はもちろん保存、すすぎも全て1滴でできるMPSの特長を忘れず、くれぐれもすすぎや保存に自家製保存液を使わないようにして下さい。
4. レンズケースも洗浄、乾燥、交換する
汚染されたソフトコンタクトレンズのレンズケース
汚染されたハードコンタクトレンズのレンズケース
レンズケースも毎日洗浄と乾燥をさせないと、細菌がケース中で増殖してしまいます。キャップ部分にカビが生えたり、容器の内側にヌルヌルした菌の膜ができているようなレンズケースは論外。必ず毎日、流水(水道水)でレンズケースを洗うようにします。水道水中にもアカントアメーバがいますから、洗い終えたら必ずケース全体の水気をきっておき自然乾燥させてください。さらに、レンズケースは必ず1〜3ヶ月に1度は新しいケースに交換するようにしましょう。
5. 3ヶ月に1度は定期検査
おろそかにされてしまいがちなのが、3ヶ月に1度の定期検査。使い捨てソフトコンタクトレンズ使用者のおよそ4割の人は、1年間で目の度数に変動が生じ、コンタクレンズの度数の変更が必要となります。またコンタクトレンズにより生じた小さな目のキズは眼科医でなければ気づきません。常に正しい度数のものを装用し、安全なコンタクトレンズを使い続けるために眼科医による定期検査は欠かせないものなのです。また検診を受ける時には、コンタクトレンズ装用による目にキズがないか、レンズ度数が合っているかを、コンタクトレンズが目になじんだ状態で検査を受けるのが理想的です。正しい検診ができるように、検診の日は朝からコンタクトレンズを装着するようにします。
6. コンタクトレンズを装着する直前にMPSでコンタクトレンズをすすぐ
MPSによるソフトコンタクトレンズのすすぎ
MPSは消毒剤ですが、レンズケース内では細菌などの微生物が増殖することが知られています。レンズケース内は大なり小なりの微生物汚染があると考えた方が良いでしょう。レンズを装着する直前に、レンズケースから取り出したコンタクトレンズをMPSですすぐことで、コンタクトレンズの微生物汚染を最小限におさえることができ、結果として、コンタクトレンズによる眼感染症を予防することができます。