コンタクトレンズは医師に処方してもらう必要がある「高度管理医療機器」です。コンタクトレンズは角膜(目の黒目部分)に直接、接触していますから、不適切なものを装用したり、間違った使い方をすると、角膜に傷がついたり、レンズのせいで酸素が十分に供給されなかったりして、さまざまな目の病気にかかり、失明の危険性もあります。コンタクトレンズを購入する場合は、必ず眼科専門医の診察を受け、目に適したコンタクトレンズを処方してもらい、適切な使用方法を指導してもらう必要があります。
コンタクトレンズの使用目的
コンタクトレンズの使用目的は、主として屈折異常の矯正です(おしゃれ目的のカラーコンタクトレンズ、手術後に角膜を保護し、傷の治療を早める目的の治療用コンタクトレンズなどの例外もあります)。屈折異常には近視、遠視、乱視があります。目はカメラと同じような構造をしていて、外からの光をレンズに相当する角膜や水晶体で屈折させ、フィルムに相当する網膜で焦点を結ぶ仕組みになっています。網膜に正しく焦点を結ぶことができる状態を正視といい、光の屈折がうまくいかず、網膜に焦点が結べない状態を屈折異常といいます。
眼球の構造(模式図)
コンタクトレンズの長所と短所
コンタクトレンズと眼鏡を同じように考えることは危険です。また最近話題になっている近視矯正手術も同様です。それぞれの長所と短所を理解して、選択をしないと取り返しのつかないことになることがあります。
【コンタクトレンズの長所】
・光学的にすぐれている
近視の強い人では、眼鏡はレンズが厚くなり、ものが小さく見えたり、ゆがんで見えるといった短所がありますが、コンタクトレンズは目に密着させて装用するため、そのようなことはありません。左右の視力差があっても、楽に見ることが出来ます。
・不正乱視(目の表面の凹凸)を矯正できる
眼鏡で矯正できない不正乱視でも、ハードコンタクトレンズを用いれば、目の表面の凹凸をカバーし、矯正できます。
・視野が広い
眼鏡は縁にさえぎられて、視野が狭くなりますが、コンタクトレンズは裸眼と同じ視野が得られます。
・度数の変更が可能
近視矯正手術は度数変更が出来ませんが、コンタクトレンズやメガネでは環境に応じて、度数を変更することが出来ます。
【コンタクトレンズの短所】
・眼障害の危険性がある
目の表面に密着させるコンタクトレンズは、適応や装用方法を誤ると、目に大きな影響を与えます。
・レンズケアが必要
コンタクトレンズが汚れていると眼障害の原因になります。そのため、毎日、こまめにレンズケアを行う必要があります。
・装用できない人もいる
コンタクトレンズは目の状態によって装用できない人もいます。ドライアイ、結膜炎などの患者さんは装用できませんし、発育途上の小学生が装用すると、いろいろな影響が出る可能性があります。
眼鏡の長所と短所
【眼鏡の長所】
・安全性が高い
眼鏡のレンズも破損することはありますが、適切なレンズの種類は選択すれば、そのようなことは滅多になく、コンタクトレンズや近視矯正手術よりも安全です。
・度数の変更が可能
近視矯正手術は度数変更が出来ませんが、コンタクトレンズやメガネでは環境に応じて、度数を変更することが出来ます。
・老視に対応しやすい
近視の人では、コンタクトレンズや近視矯正手術よりも近くが見やすく、老眼になっても近くが見やすく有利です。老視用の眼鏡も使いやすいものが販売されています。
【眼鏡の短所】
・美容上の問題がある
コンタクトレンズや近視矯正手術では容姿は変わりませんが、眼鏡では変わります。
・度数に限界がある
眼鏡ではレンズの度数を強くすると、ものがゆがんだり、ずれて見える。
・不同視に不向きである
眼鏡では左右のレンズ度数が大きく違うと、左右でものの大きさが違って見えるため、左右の度数が違う人では使用できないことが多い。コンタクトレンズではそのようなことはない。
近視矯正手術の長所と短所
LASIK手術後の角膜不正乱視(二次性円錐角膜)
近視矯正手術後(RK手術)
【近視矯正手術の長所】
・眼鏡もコンタクトレンズもいらない
近視矯正手術を受ければ、通常、遠くを見るためには眼鏡もコンタクトレンズも必要ありません。ただし、老眼になれば近くを見るためには老眼鏡が必要となります。
・いつでも見える
夜間の緊急事態でも、眼鏡やコンタクトレンズを装用する必要はありません。
【近視矯正手術の短所】
・度数の変更が困難
近視矯正手術は、一旦手術を受けると、度数を変更することは非常に困難です。元に戻すことも出来ません。
・老視に対応できない
近視矯正手術を受けても、老眼になれば近くを見るためには老眼鏡が必要となります。一般にコンタクトレンズよりも老眼鏡を使用する年齢は早くなります。
・手術時のトラブル
近視矯正手術では度数の誤り、眼球穿孔、角膜混濁、LASIKフラップの消失、角膜内異物混入などの、様々な手術時のトラブルが報告されています。
・長期予後は不明
近視矯正手術の長期予後はまだまだ不明です。特に術後の不整乱視(2次性円錐角膜)の発生が問題となっています。現在は術前の角膜厚の検査で、発生を予測していますが、100%の予測は出来ていません。
コンタクトレンズの目への影響
コンタクトレンズによる目への影響は、レンズの種類(酸素透過性、デザイン)、厚さ、直径、度数、フィッティング、汚れ・変形、年齢、装用時間、装用年数、涙液量、などによって異なります。コンタクトレンズを装用するならば、個々の目の状態に合わせ、できるだけ目への影響の少ないコンタクトレンズ、装用方法、レンズケアを選択することが大切です。
目への影響が強いコンタクトレンズ
- 目に合っていないコンタクトレンズ
- 汚れたコンタクトレンズ
- 度数の強いソフトコンタクトレンズ
- 酸素を通さないハードコンタクトレンズ
コンタクトレンズを安全に使用するためのポイント
・ 眼科専門医による適切な処方を受けましょう。
目の状態と使い方に合ったコンタクトレンズの選ぶことが重要です。不適切なコンタクトレンズは目の病気につながります。
・ 無理な装用は絶対にやめてください。
特に長時間の装用は禁物です。1日14時間以内の装用を目安としてください。
・ 正しいコンタクトレンズのケアをしてください。
毎日、こすり洗いして、レンズケースを毎日洗浄・乾燥し、定期的に交換しましょう。
・ 3ヶ月に一度の定期検査を必ず受けましょう。
定期検査も安全なコンタクトレンズ装用のために重要です。定期検査を受けていれば、もし障害が起こっても軽いうちに発見でき、適切な対応ができます。もう一つ大事なことはレンズ度数です。使い捨てソフトコンタクトレンズ装用者でも、1年間で約4割の人はレンズ度数の変更が必要となります。同じ度数のコンタクトレンズを定期検査を受けないで使い続けると、眼精疲労、頭痛などのトラブルの原因になります。
・ 少しでも目がおかしいと思ったら、コンタクトレンズをはずして、眼科医の診察を受けてください。
ほおっておくと、角膜潰瘍、眼内炎などの失明の危険性の高い病気に進展することがあります。すぐにコンタクトレンズがはずせるように、常にめがねを携帯してください。
コンタクトレンズ装用までの正しい手順
・コンタクトレンズ装用までの正しい手順
コンタクトレンズを装用するまでの手順は、目の検査→コンタクトレンズの説明→コンタクトレンズの処方→コンタクトレンズの購入→購入レンズの確認というのが正しい順序です。目の検査により処方されるレンズが決まり、処方により購入するレンズが決まるわけですから、最初にメガネ店、コンタクトレンズ量販店を訪ねて購入したいレンズを決定してしまうのは順序が逆なのです。自分の目にはどんなコンタクトレンズが合うのか、まず眼科を訪ねて目の検査を受けるのが、コンタクトレンズの装用のスタートです。そして、眼科医からコンタクトレンズ全般の説明を受け、それからレンズの希望を伝えて、そのうえで目に合ったレンズを選択してもらい、そのレンズの長所と短所、レンズケア方法などの説明を聞き、納得したうえで初処方、装用指導を受けて、購入し、購入後は実際に購入したレンズが目に合っているかを眼科医が確認する必要があります。
・コンタクトレンズの処方
コンタクトレンズ処方の際には、装用方法、装用時間、患者の希望などを考慮し、目の状況に応じた適切なコンタクトレンズを選択し、最適なレンズフィッティングと適切な度数で処方し、十分な装用指導、レンズケア指導を行い、その後の検診で眼、CLの状況を確認し、処方変更が必要なときはそれを実施します。
問診
スクリーニング検査
コンタクトレンズ処方希望者への説明
処方するコンタクトレンズのメーカーと種類の選択
トライアルレンズの選択
トライアルレンズによるフィッティング検査(レンズ度数以外の規格を決定)
トライアルレンズによる追加矯正視力検査(レンズ度数の決定)
処方コンタクトレンズによる視力検査
処方コンタクトレンズによるフィッティング検査
装用指導、レンズケア指導
検診(1週間〜3ヶ月後)
・コンタクトレンズの購入
ひと昔前まではコンタクトレンズを初めてつくろうとする人(装用未経験者)は、まず眼科医院・病院を訪れる人が多かったのですが、最近ではそのような人は少なくなりました。コンタクトレンズを初めてつくろうという人(装用未経験者)も、新しいレンズにつくり替えようという人(装用経験者)も、その半数以上の人がメガネ店やコンタクトレンズ量販店を訪ねています。通信販売やインターネットでコンタクトレンズを購入している人もいます。しかし、メガネ店やコンタクトレンズ量販店では非眼科医が診療を行っているところも少なくありません。非眼科医では目に合っているコンタクトレンズ処方が出来ません。通信販売やインターネットで購入している人に眼障害が多発しているという報告もあります。コンタクトレンズを購入する場合は、必ず眼科専門医のいる眼科診療所・病院を受診して、コンタクトレンズの処方を受けるようにしてください。診療所・病院では状況に応じてコンタクトレンズ処方箋が発行されます。
どんな眼科を選べばいいの?
眼科の看板を掲げている診療所、病院はたくさんあります。しかし、すべての眼科がコンタクトレンズを扱っているわけではありません。コンタクトレンズを扱っていないところもあります。コンタクトレンズ装用希望者はまずコンタクトレンズを扱っている眼科医院・病院を見つける必要があります。直接電話して聞いたり、コンタクトレンズを装用している友人や知人に聞いたりすれば見つかると思います。雑誌、インターネットでコンタクトレンズに詳しい眼科医を検索するのも良い手段です。ここで注意してほしいのはメガネ店・コンタクトレンズ量販店の診療所です。「眼科」の看板を掲げていても、コンタクトレンズの処方のみを目的とする「コンタクトレンズ診療所」で、眼科医が不在で、眼科以外の科の医師を雇っているところが少なくありません。眼科医がたとえいたとしても、眼科医がレンズの処方にはかかわらず形式的な診察しかしないところもあります。コンタクトレンズを扱っている一般の眼科医院・病院に勤務する眼科医の中にも白内障の専門、網膜剥離の専門があるように、コンタクトレンズにあまり詳しくない医師もいます。コンタクトレンズ量販店の診療所にも目とコンタクトレンズに詳しい眼科医もいます。できるだけ情報を集めて、信頼できる眼科を選びましょう。目とコンタクトレンズに詳しく信頼できる眼科医は、じゅうぶんに目の検査をし、コンタクトレンズによって眼障害が起こる可能性があること、その眼障害を防ぐには何が大切なのかをきちんと説明します。流れ作業的にスピーディに検査をしてコンタクトレンズを処方し、説明をスタッフまかせにして、その後のフォローをしない眼科、とくに眼科医が何も説明してくれないところは危険です。
危険な情報がいっぱい!
コンタクトレンズの種類がふえ、レンズケア用品も数多く発売されています。コンタクトレンズやレンズケア用品の情報はマスコミなどを通じ、一般にも伝わっています。しかし、断片的な情報が多く、勘違いや理解不足が生じています。たとえば、「使い捨てソフトコンタクトレンズは安全」と報じられたことにより、「使い捨てソフトコンタクトレンズは眼障害が起こらない」と勘違いしている人が大勢います。使い捨てソフトコンタクトレンズでも多くの眼障害は起こっています。「使い捨てソフトコンタクトレンズは従来型ソフトコンタクトレンズに比べて眼障害が少ない」というのが正しい情報です。レンズケア用品にしても、「こすり洗いがいらない」というCMが流れたり、販売しているドラックストアの店員もそう説明していますが、そのとおりに使用してもコンタクトレンズの汚れが落ちず、眼障害を起こすケースが非常に多くなっています。メーカーのCMやパンフレットでは当然、長所のみが強調されています。しかし、どんなコンタクトレンズ、レンズケア用品も一長一短があり、長所の裏に短所が隠れています。一片の情報に惑わされず、そのコンタクトレンズ、レンズケア用品の総合的な情報を把握し、かつ自分の目に合うかどうかを判断し、選択することが大切です。
目に合わないコンタクトレンズをつくったり、勝手に簡便なケア用品に変更したりすると、眼障害が起こりやすくなります。コンタクトレンズ、レンズケア用品が合うか合わないかは目によって異なります。たとえば、まったく同じコンタクトレンズがある人には合い、ある人には合わないというように、誰にでも合う、誰にでも安全なコンタクトレンズはないのです。同じレンズケア用品でも、レンズの汚れが落ちる人と落ちない人とがいるのです。レンズケア用品にはコンタクトレンズとの相性もあります。そこで総合的に情報を分析してコンタクトレンズ、レンズケア用品を評価し、その人の目の状態を診察し、適正なコンタクトレンズを処方し、適切なレンズケアを指導してくれる眼科専門医の助けが必要なのです。
コンタクトレンズ装用にあたっての正しい検査方法
コンタクトレンズの検査には処方前検査と定期検査があります。前者は新しく装用するコンタクトレンズを選択するための目の検査、後者は使用中のコンタクトレンズおよび目の状態を調べる検査です。前者は初めて装用するときだけでなく、たとえ既にコンタクトレンズ装用者であっても、処方を受ける目的で最初にクリニックを受診したときに必要な検査です。処方前の検査データが十分でなければ、今まで装用していたコンタクトレンズが目にあっているかどうかを判断できません。
メガネ店、コンタクトレンズ量販店で処方を受けている方の中には、近視度数を測定し、あとは角膜のカーブを調べるくらいの簡単な検査で済むと思っている方もいるかもしれませんが、コンタクトレンズによるトラブル、眼障害を予防し、快適、安全に装用するためにはきちんとした目の検査が必要です。目の検査を確実に実施しないと、その人の目に合うコンタクトレンズを選べません。目に合わないコンタクトレンズを装用していると、高率に眼障害が発生します。